風の時編集部 【仙台の原風景を観る、知る。】

“仙台の原風景を観る知る”をテーマに、2005年「風の時編集部」を設立。100年前の古地図『仙台地図さんぽ』や仙台城下絵図『仙台まち歩きシリーズ』、昭和時代の写真集『仙台クロニクル』等を企画。2023年現在42作を発行 ●風の時編集部 代表 佐藤正実 ●Eメール:info@sendai-city.net ●TEL:022-295-9568 ●〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡3-11-5 A610 ●楽天市場ショップ→http://rakuten.co.jp/kazenotoki/

『長崎の郵便配達』に観る「感情」と「共感」のアーカイブ

郵便配達途中に長崎原爆で被爆し、核の廃絶を訴え続けた谷口すみてるさん。その谷口さんを取材したピーター・タウンゼンドさんが、1984(昭和59)年に「THE POSTMAN OF NAGASAKI」という小説を出版。そして、タウンゼンドさんの娘のイザベルさんが、父親の足跡をたどり追体験するドキュメンタリー映画が『長崎の郵便配達』という作品。2月5日(日)一日だけの上映会で鑑賞してきた。
この映画の一番の特長は、長崎原爆を直接体験された方でも、被爆された方を取材した作家でもなく、その作家の娘が映画の主人公であるということ。つまり、当時の方ではなく、後の時代に生きる非体験者の視点から作られたドキュメンタリー映画であるというのがポイント。

映画は長崎の坂道や精霊流しの舟などを写しながら淡々と進んでいくが、その中でイザベルさんが長崎を訪れて人と会い、その風景や言葉から父の面影を感じられる一つひとつが彼女の感情を揺さぶり続ける。そして、当時通訳をしていた方から、父親のタウンゼンドさんは自然音に敏感で「時々自然の音を録音していました。風の音、そして花の香り、小鳥のさえずりまで」ということを聞き、父親の人となりを思い起こしたのだろう、むせび泣く姿が映し出される。
そのシーン後のイザベルさんの心情が、あたかも私信のように、今仙台に住む私たちの心にストレートに訴えかけ、私自身一度も訪れたことのない長崎で起きた78年前の悲しい出来事に思いを馳せることになるのだから驚く。例え、時代や住むまちが違ったとしても、「感情」を通して人は「共感」することができるということを身をもって実感することができる映画だった。
ちょうど、これまで自分が17年間取り組んできたアーカイブとは?をじっくり考えまとめた直後の映画鑑賞だったこともあり、よりそのことが身体に染み込んできたのかもしれない。東日本大震災をいかに非体験者に伝えるのか?良く言われる問いだが、この映画の中にそれを解くヒントがありそうだ。

当たり前のように過ごしている日常は、当たり前のように毎日訪れるわけではない。だから、今日一日を大切に生きよう!と、東日本大震災後に思っていたことを思い出させてくれたことにも感謝。

longride.jp

(追伸)
この映画を様々な世代の人たちが鑑賞し、その感想が所狭しと会場に貼り出され、ボランティアとして参加していた多くの学生さんたちと言葉を交わす場がもたれていた。通常の映画館では見られないこの設え。映画を見終えたばかりの参加者が、イザベルさんから受け取った私信を「共感」する場をつくっていたのではないか?
そして、もうひとつ。「誰も知らない劇場(旧:桜井薬局セントラルホール)」は、1945(昭和20)年7月10日未明の仙台空襲の爆撃中心地だったことも、『長崎の郵便配達』が上映された理由であることも仙台人として憶えておきたい。