【あとがき】
「オモイデ ピース」
3.11からはじまる、まちと人のオモイデをアーカイブする。
佐藤純子さんに描いていただいた「オモイデ ピース」の表紙(一部)
2011年3月11日−。津波被災によりなくなってしまった、かつての風景。 それは、まるで、そこに暮らしていた人びとの生活や想い出までもがなくなってしまったかのようでした。しかし、土地の記憶というものはそう簡単に失われるようなものではありません。数百年かけて作られてきたまちの風景を元に戻すことはできませんが、懐かしく想い出を語り合うことはできます。
1枚の写真が多くの記憶を次々と想起させ、語ることで伝播し、また誰かの記憶を誘うという想い出語りの連鎖−。
私は今まで行ってきた「まちをアーカイブ(記録)する」活動を通じ、個人の記憶の集合体が地域の記憶になる、ということを学んできました。風景が失われた今こそ、記憶を呼び覚まし、想い出を語り形にすべき時なのかと。 昨年度、仙台市震災メモリアル市民協働事業の一環として、大学生たちと3.11ツアーの企画運営をした時に痛感したのが、仙台市沿岸部を初めて訪れた方々に、それぞれ個性的だったまちまちをどう伝えれば良いのか、ということでした。津波被災に遭い更地化されてしまったことで、残念ながらどこも一様に見えてしまう沿岸部。震災アーカイブだけでは伝えきれない、もとのまちの記憶を伝えることの難しさを考えさせられました。
地元の人々が想い出を語り合える記録と、
もともとのまちの営みがイメージできる記録。
震災前後の風景を定点で撮影した記録として見せることで、そのふたつを結びつけることができるかもしれない。これが、本書「オモイデピース」製作のきっかけでした。 3.11を機に関心が高まる写真や映像のアーカイブ活動。しかし、重要なのは収集された素材そのものではなく、まちと人の想い出をいかにその素材に関連付けさせて記録させることができるのか、なのです。散らばってしまったオモイデの小片(ピース)を集め、記録し残すという意味をタイトルに込めた「オモイデピース」。地元の人々には、「かつての風景」となってしまった景色から想い出を語り合ってもらったり、復興後の未来を思い描く時の茶飲み話のネタになればと願っております。また、今後、仙台を訪れる皆さんには本誌を手に、震災前と後とを見比べることで、もとのまちの姿をイメージしながら現地を巡ってもらう時の資料として活用いただければ大変嬉しい限りです。
本書出版にあたり、多くの方々から貴重な資料の提供と数々のご教示をいただきました。震災前の仙台市沿岸部の風景を写す写真をご提供いただきました皆様に、深甚なる敬意と謝意を捧げます。とりわけ、高橋親夫様、貴田国松様、工藤寛之様には、本誌の骨格をなす多くの資料をご提供いただきましたこと、重ねて御礼申し上げます。
また、本書表紙イラストを描いていただいた佐藤純子様、本誌製作や昔を語る会の実施にご協力いただいた佐藤豊様、貴田喜一様、庄子智香子様、佐藤政信様、荒浜再生を願う会様、荒井小学校用地仮設住宅のみなさま、高砂一丁目公園仮設住宅のみなさま、そして、このような本を製作する機会を与えていただいた「READYFOR? 震災以前と今を対比した写真集『オモイデピース』を作り全国へ−プロジェクト」ご支援者のみなさまに心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
2014(平成26)年12月
「オモイデ ピース」製作プロジェクト
佐藤正実