風の時編集部 【仙台の原風景を観る、知る。】

“仙台の原風景を観る知る”をテーマに、2005年「風の時編集部」を設立。100年前の古地図『仙台地図さんぽ』や仙台城下絵図『仙台まち歩きシリーズ』、昭和時代の写真集『仙台クロニクル』等を企画。2023年現在42作を発行 ●風の時編集部 代表 佐藤正実 ●Eメール:info@sendai-city.net ●TEL:022-295-9568 ●〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡3-11-5 A610 ●楽天市場ショップ→http://rakuten.co.jp/kazenotoki/

昭和時代の写真が持つ、想い出の“チカラコブ”

◆沿岸部全体の一様な風景と3.11ツアー
2013年から仙台市との震災メモリアル市民協働プロジェクトとして、仙台市宮城野区蒲生〜若林区荒浜〜名取市閖上を巡る3.11ツアーを学生・社会人らと企画・運営をしてきました。
2011年3月11日の津波により失われてしまった沿岸部の町の風景。

建物が解体され、更地となってしまった風景は県外のお客様にとってはどのまちも一様に見えてしまい、かつてそこに町があり、人びとが暮らしていたことをイメージすることは容易なことではありません。ましてや、初めてこの地を訪れる方々にとってはなおさらのこと。震災後の今の風景だけでは本来のまちの良さを伝えきれないことに気付かされました。

2013年9月29日「もういちど見てみよう3.11ツアー」
ゲスト/山口洋典先生、高森順子様、立命館大学の皆様


◆震災前の生活を語り記録するという活動
昔のアルバムを見始めるとついつい想い出が甦り時間が経ってしまうということは、ほとんどの人が体験していることです。
2012年から2年間、「楽しむっ茶会」と称して荒井小学校用地、若林日辺グラウンド、卸町五丁目公園、七郷中央公園JR南小泉などの仮設住宅集会所や六郷・七郷市民センター、みやぎ生協集会所を会場に、昭和時代の写真・映像をご覧いただき想い出を語ってもらい、それらを書籍化するという六郷・七郷コミネットさんのプロジェクトのサポートをさせていただきました(※1)。
この会では、他の町と相互に手伝った田植えのお話や町が一丸となって取り組んだ運動会、貞山堀でのシジミとりなど、参加者の笑顔がほころび予定時間を大幅に超えて盛り上がることもしばしばでした。

2013年5月8日ニッペリア仮設住宅集会所で行った「楽しむっ茶会」

◆「オモイデ ピース」を作るきっかけが“想い出のチカラ”
個性的だった仙台市沿岸部のまちが、津波によって更地化されたことによって外見上はどの町も一様に見えてしまうこと―。しかし、その一方で、スクリーンに大写しで投影された昭和30年代の写真や映像は、震災前以上に想い出を語る素材になること―。

被害の大きさだけがクローズアップされて伝えられることが多い沿岸部ですが、当たり前のように、もともとそこには日常生活があり、そこに暮らす人々がいました。3.11ツアーの実施と想い出を語ってもらう会、このふたつの活動がちょうど同じ時期に重なったことで、震災前の写真と人々の想い出によってもともとのまちの営みを伝えるという発想に結びついたのかもしれません。2014年、震災前の地域の写真を集めた記録集「オモイデ ピース」を作るきっかけになりました。

2014年12月に発刊した震災前後の定点記録誌「オモイデ ピース」

◆想い出の“チカラコブ”を強くしてまちの良さを知る
貞山運河を撮影されていた高橋親夫さん、荒浜の日常生活を撮っていた貴田国松さん、工藤寛之さん、震災後、写真の提供を広く呼びかけて収集された佐藤豊さん。皆さんの写真や活動、そして全国の方々からのあたたかいご支援金によって「オモイデ ピース」を一冊にまとめさせていただきましたが、震災から4年5ヶ月が経った今、3.11以前に撮られたかつての風景は新しい意味を持ち始めたと感じています。
今からではもう撮ることができない、生活の一コマが写された大切なわたしたちの“想い出”が、宝物と皆が気付いたからです。懐かしいと思う気持ちは単なるノスタルジーだけではなく、自分がその時代を確かに生きてきたという証でもあります。

筋肉はトレーニングをすることで筋力がついてくるのと同じように、語り、聴き、笑うことで想い出の“チカラコブ”はますます強くなり、人と人、土地と人を引きつけるチカラになっていくのかもしれません。震災が起きたからこそ気付いたまちの良さ。鮮やかに彩られた想い出の量と質は、過去に生きるだけではなく、将来の仙台を形づくるための大切なチカラになっていくのではないでしょうか。

※1 「ふたつの郷―言の葉で紡ぐ六郷・七郷の新・地域誌」(2014年3月発行・製作/六郷・七郷コミネット)